東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)241号 判決
一 請求の原因一、二の事実及び審決がその理由の要点1ないし3で認定した事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。
1 請求の原因四1について
前示当事者間に争いのない事実と成立に争いのない甲第五、第六号証によれば、原告が請求の原因四1(一)において挙げる形状模様を有する端子盤の意匠が引用意匠の出願前すでに公知の意匠であつたことが認められるが、この意匠はその端子接続用胴部の下方に直方体状で底面に端子を有する脚部を胴部と一体に構成したものではなく、また、成立に争いのない甲第九号証の一・二によれば、原告が同(二)において挙げる形状模様を有する端子盤の意匠が本願類似意匠登録出願(以下「出願」という。)前に登録出願されていることが認められるが、この意匠は胴部を構成する直方体につき上面の両長辺稜部を斜めに切り欠いて斜面を形成した構成を有しない点において、いずれも、前示基本的構成態様を有する本願意匠及び引用意匠とその構成を異にするものであることが明らかである。原告が同(三)において挙げる意匠が本願意匠の出願後のものであることは、成立に争いのない甲第一〇号証の一・二、第一一、第一二号証により明らかである。そして、本件全証拠によつても、前示基本的構成態様に示される各構成要素を結合して一体とした端子盤の意匠が引用意匠及び本願意匠の出願前に普遍的なものになつていた事実は、これを認めることができない。
以上の事実によれば、前示基本的構成態様に示される各構成要素を結合して一体とした端子盤の意匠の出願は引用意匠の出願をもつて嚆矢とし、本願意匠の出願がこれに次ぐものであることが認められ、このことに加え、両意匠の各形態を示すものであること当事者間に争いのない別紙(一)(二)によれば、右基本的構成態様に示される各構成要素が両意匠の形態を構成する要素の大きな部分を占めていることが明らかであるから、右基本的構成態様は、両意匠の形態全体の基調を決定づけるものであつて、両意匠の特徴を最も強く形成し、見る人の目を強く惹くところと認めるに十分である。
したがつて、右基本的構成態様が端子盤の類否判断において主要の比較対照の要素とならないとする原告の主張は失当である。なお、原告が請求の原因四1(三)で挙げる意匠は、本願意匠出願後の登録出願に係るものであることは前叙のとおりであるから、これが本願意匠と別個に登録されていることが右認定判断を覆えす理由にならないことはいうまでもない。
2 同四2ないし4について
(一) 前示別紙(一)(二)によれば、本願意匠と引用意匠の胴部は、被告が請求の原因に対する反論2において述べるとおりの割合でそれぞれ直方体の上面の両長辺稜部を斜めに切り欠いて斜面を形成したものであることが認められ、これにより、前示当事者間に争いのない相違点(1)において審決が指摘する差異があることが認められる。また、この差異によつて、仕切板が本願意匠においては胴部上縁に近いところから立上つているのに対し、引用意匠においては胴部下縁に近いところから立上つている差異が生じていることが認められる。
しかし、この差異は、直方体上面の稜部を斜めに切り欠いて斜面を形成し該部を跨ぐ態様で仕切板を設けた両意匠に共通する構成態様の中で、胴部の斜面ひいてはその垂直面を広狭いずれかにするかということによつて生じた差異であり、右構成態様のうちにあつてはなお類似の範囲を出ない変更ととらえるのが相当である。原告は、本願意匠の胴部は直方体状であるのに対し引用意匠の胴部は断面台形であることを前提に、右の点の差異は顕著な差異であると主張するが、右認定の事実から明らかなとおり、両意匠の胴部は共に断面が変形六角形をなすものであるから、右主張は当たらない。
(二) 原告が両意匠の胴部と脚部の連結体の縦横比、胴部及び脚部の長さに対する各高さと奥行の各比、胴部の長さに対する両端の突出部の突出量及び高さの割合、仕切板の数及び胴部の長さに対する仕切板の高さと各仕切板の中心間隔の割合における各差異として主張するところは、いずれも審決が相違点(2)として指摘した差異に由来することが明らかであり、この差異が端子盤に取り付ける端子数を何個とするかという実用的観点からの決定によつて生じるものであることも明らかである。そして、成立に争いのない乙第一号証の一ないし四によれば、基本的形態を同一とし端子数を異なつたものとした一連の端子盤は一個の型式に含まれるものとして市場に提供されていることが認められ、この事実によれば、端子数の多少によつて必然的に生じる形態の変化は同一基本的形態を具備する端子盤の類型的変化にすぎないものと一般に認識されていることが明らかである。したがつて、端子数の多少によつて生じるプロポーシヨンの差異は、端子盤の意匠の類否を判断する主要な要素とならないと解するのが相当であり、原告の主張する前示各差異は、本願意匠を引用意匠と別異なものとする差異ということはできない。
(三) 原告主張の脚部の巾に対する胴部の巾の比の差異は、原告の主張自体からも明らかなとおり、本願意匠において一対一・二、引用意匠において一対一・三強であつて微差であり、脚部の高さに対する胴部の下端から仕切板上端に至る高さの比の差異は、別紙(一)(二)により原告主張どおりに認められ、本願意匠が引用意匠に比しやや背高感を与えるが、これをもつて両意匠を別異の意匠とするに足りる顕著な差異ということはできない。また、仕切板の形状において原告主張の差異があることも別紙(一)(二)によつて認められるが、この差異は、引用意匠の仕切板が本願意匠の仕切板に比し、実用面ではやや強度を高め、意匠面ではやや装飾性を高めたものとの印象を与えるものにすぎず、これをもつて、両意匠の類否を決定するに足りる意匠的特徴を示すものと到底いうことはできない。
(四) そして、前叙のとおり、両意匠に共通する基本的構成態様は、両意匠全体の基調を決定づけるものであつて、両意匠の特徴を最も強く形成し、見る人の目を強く惹くところであつて、これにより両意匠は共通の美感を呈するものと認められ、これに比し、前示の各差異は、右に述べたとおり両意匠の類否判断を決定づけるに足らない微差と評価されるにすぎないものであり、また、右各差異を総合しても右基本的構成態様のもたらす両意匠の共通の美感を覆えすに足りるものと認めることはできないから、両意匠は類似の意匠といわなければならない。
3 以上のとおりであるから、本願意匠を引用意匠に類似するものとし、意匠法九条一項に基づき意匠登録を受けることができないとした審決の判断に誤りはない。
三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註その一〕 本件に関する特許庁における手続の経緯および審決理由の要点は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五四年二月八日、意匠に係る物品を「端子盤」とし、形態を別紙(一)のとおりとする意匠(以下「本願意匠」という。)につき、本意匠を登録第四〇四六五八号意匠とする類似意匠登録出願をした(昭和五四年意匠登録願第四四五七号)が、昭和五八年三月二五日に拒絶査定を受けたので、同年六月八日、これに対し審判の請求をした。
特許庁は、これを同年審判第一二八七五号事件として審理した上、昭和六二年一一月一九日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年一二月九日、原告に送達された。
二 審決の理由の要点
1 本願意匠が本意匠を登録第四〇四六五八号意匠とする昭和五四年二月八日の類似意匠登録出願に係り、意匠に係る物品を「端子盤」とし、その形態を別紙(一)のとおりとしたものであることは、前項記載のとおりである。
2 これに対し、登録第五七四〇七七号意匠(昭和五四年一月一八日出願、昭和五七年一月二九日設定登録、以下「引用意匠」という。)は、意匠に係る物品を「端子台」とし、その形態を別紙(二)のとおりとしたものである。
3 両意匠を対比すると、まず、両意匠は意匠に係る物品が一致する。
次に、形態についてみると、両意匠は、直方体の上面の両長辺稜部を斜めに切り欠いて斜面を形成し、その余の平面部と右斜面で形成された上面を跨ぐ態様で、側面形状が矩形で薄板状の複数の仕切板を平行等間隔に設け、各仕切板の間にビスを一列に配した(ビス頭は平面上に露出してあらわれている。)態様に端子接続用胴部を構成し、胴部の両外側を水平にやや突出させ、その中央に小円孔を設けて取付部とし、胴部下方に、横幅を胴部幅とし奥行幅を胴部奥行幅よりやや狭幅とする直方体状の脚部を胴部と一体に構成し、右脚部の底面にはビスと同数の端子を一列に配したものとした基本的構成態様が共通する。
一方、両意匠には、具体的態様において、以下の相違点が認められる。
(一) 本願意匠が胴部上面に形成した斜面を細幅とし、それに伴つて胴部前後の垂直面を広幅としているのに対し、引用意匠は斜面を広幅とし、それに伴つて垂直面を細幅としている点(相違点(1))
(二) 本願意匠が両端取付部を除く全体の高さ対横幅の比率を約一対三強としているのに対し、引用意匠は同比率を約一対八強としている点(相違点(2))
4 以上の一致点、共通点及び相違点を総合して両意匠の類否を全体として考察すると、両意匠において共通する前記基本的構成態様は、両意匠の形態全体の基調を決定づけるものであつて、各意匠の特徴を最も強く形成するものであると認められる。したがつて、この共通性は両意匠の類否判断を支配するものと認められる。
これに対して、具体的態様における前記相違点(1)について考察すると、胴部の斜面と垂直面の幅の細広の差異は、直方体上面の稜部を斜めに切り欠いて斜面を形成し、該部を跨ぐ態様で仕切板を設けたところの共通する基本的構成態様上の基調の中に包摂される程度の部分的なものと認められ、この差異は到底両意匠の類否判断を左右するに足りないものである。また、相違点(2)については、複数の端子を備えた両意匠間において、その比率の差異はもつぱら端子数の多少によるものであつて、意匠的にはこの程度の差異は、ほとんど類否判断に影響を及ぼさないものである。そして、これらの相違点を総合しても類否判断を左右するに至らないと認められる。
してみれば、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態において共通点が相違点を凌駕すると認められる以上、本願意匠は引用意匠に類似することを免れない。
5 したがつて、本願意匠は、意匠法九条一項に基づき意匠登録を受けることができない。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙(一)
本願意匠図面
<省略>
別紙(二)
引用意匠図面
<省略>